最近、「マーケティングが以前より難しくなった」という声を聞く。競合、広告単価、コンテンツ量だけでは説明できない。顧客の意思決定プロセスの一部が、企業と人間の間にあるAIへ移りつつあるからだ。

ChatGPT、Gemini、Perplexity、Copilotなどは、条件を整理し、複数の情報源を探し、要約し、候補を比較する。OpenAIはChatGPT Searchを、必要に応じてWebを検索し、回答に関連する情報源へのリンクを示す仕組みと説明している。GoogleもAI Modeで複数の関連検索を行い、複雑な比較を支援する方向を示す。

従来:Company → Advertisement / Search / SNS → Human → Website → Conversion
現在〜今後:Human Intent → AI → Discover → Compare → Recommend → Human Verification → Conversion

そのため、企業サイトに到達した人数だけを見ていると、候補から外れた段階の損失を測れない。クリックされることと、選ばれることは同じではなくなったのである。

1. Discoverability — 発見される
AIが質問に答えるとき、自社・商品・サービスを候補として発見できる状態。Webだけでなく、構造化情報、第三者メディア、SNS、レビュー、公開データ、引用など複数の情報源から存在を認識できることが重要になる。クリックされなくても候補に入ることに価値が生まれる。
2. Understandability — 正しく理解される
何を提供するか、誰向けか、価格、地域、条件、特徴、他社との違い、実績、利用方法をAIが取り違えない状態。記事数を増やすことより、企業と商品についての機械が解釈できるGround Truthを整備する方が先になる。
3. Trust — 推薦する根拠がある
認識されても、推薦理由がなければ候補には残らない。実績、Case Study、第三者評価、レビュー、専門性、一次データ、価格透明性、公開情報の一貫性など、広告の外側にあるEvidenceが競争力になる。
4. Actionability — 行動できる
「おすすめです」で終わらず、予約、問い合わせ、空き状況確認、購入へ進める状態。明確なCTA、更新可能な情報、予約や問い合わせの導線、必要に応じたAPIやMCPなどが関係する。特定技術を急ぐのではなく、現在の導線を機械と人間の双方で辿れるか確認する。
5. Relationship — 直接関係を持つ
AIプラットフォームへの依存を避けるには、獲得後の直接関係も必要だ。Email、LINE、CRM、会員制度、コミュニティ、イベント、Owned Mediaで、顧客との継続接点を持つ。AIに発見してもらうことと、顧客との関係を自社で保持することは両立する。

参照:Google「How AI Mode and AI Overviews help you explore the web」(2026-05-06)、Google「AI Mode」(2025-03-05)、OpenAI「ChatGPT Search」。本文の市場移行の表現は、これらの製品説明を踏まえた編集上の推論である。

従来のファネルの前半をAIが代行し始めている

従来は、認知、興味、検索、Webサイト、比較、問い合わせ、営業、購入という流れだった。いま増えているのは、課題が生まれ、AIへ相談し、AIが候補を探索・比較し、人間が公式情報や第三者情報で検証してから行動する流れである。AIは商品を売るのではなく、誰を候補に残すかを担い始めている。

「クリックされること」と「選ばれること」は違う

PV、セッション、CTR、CPC、CVR、CPA、ROASは今後も必要だ。AI検索がリンクを提示し、質の高い訪問を生むケースもある。GoogleもAI SearchをWebへの入口として説明し、回答内のリンクを改善している。

一方で、ユーザーがサイトを開く前にAIから候補を絞り込まれるケースもある。ここではゼロクリックは「価値がない」と単純には言えない。クリックされなくても、条件に合う会社として想起・推薦されたなら、意思決定の前段に参加しているからだ。これからは、サイト流入に加えてAIの候補集合に自社が入っているかを観測する必要がある。

AI時代のマーケティング5層モデル

この変化を、チャネル別の対策ではなく、AIが企業を理解して行動につなげるまでの5層で整理すると見通しがよくなる。

マーケティングの対象が人間だけではなくなる

図式で見ると変化は明快だ。従来はCompany → Humanだった。検索や広告は人間に届くための手段であり、企業が伝えた情報を人間が読んで判断した。

現在はCompany → AI → Humanという接点が増えている。さらにAgentic Commerceが広がると、Company → AI Agent → Business Systemという相互作用も増える。AIが在庫、予約枠、価格、規約を確認し、業務システムと接続する可能性があるからだ。

これはAIがマーケティングを完全に代替するという意味ではない。人間の意図や最終確認は残る。企業が届けるべき相手が、人間の意思決定を支援・代行するAIにも広がるということだ。

KPIも、流入の外側を観測する必要がある

従来KPIを捨てる必要はない。PV、CTR、CPC、CVR、CPA、ROASは、接触と事業成果を把握する基礎である。そのうえで、次の観測軸を加えると、候補から外れている理由を考えやすくなる。

  • AI Visibility:AIの回答や候補集合に現れるか
  • Recommendation Share:条件の異なる質問群で推薦候補に入る割合
  • Information Accuracy:価格・条件・地域などが正しく理解される割合
  • Evidence Coverage:推薦を支える実績・第三者情報・一次データのカバー範囲
  • Actionability:問い合わせ、予約、購入まで辿れる情報と導線の充足度
  • Direct Relationship Rate:AI経由の接点から直接関係へ移行した割合

これらは現時点で業界標準として確立した正式KPIではなく、クリックの前後を観測する指標例である。

だからAgent Readinessが必要になる

これから企業に問われるのは、「検索順位が何位か」だけではない。AIが発見し、正しく理解し、比較・評価し、根拠を持って推薦し、その先の行動につなげられるかである。

Agent Readinessは、こうした企業と顧客の新しい接点を評価する考え方である。SEOの代替でもGEOの言い換えでもない。企業がAIによって発見・理解・推薦・行動される状態を、経営と現場が確認する上位概念だ。

マーケティングが難しくなったのではない。マーケティングのInterfaceが変わったのである。人間に届くメッセージに加え、AIが事実を読み、根拠を評価し、行動へつなげられる情報設計が求められる。チャネルを増やす前に、5層のどこで止まっているかを確かめることが再設計の一歩になる。

Sources

関連リソース

Agent Readiness Framework は、AIが企業を理解・比較・推薦・実行するまでの状態を評価する基準です。個別技術を点ではなく仕組みとしてつなぐ視点を Research Hub で公開しています。

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